満身の怒りを込めて札幌地裁判決を糾弾する

2019年4月22日 安保法制違憲訴訟全国ネットワーク

代表  寺  井  一  弘

1、本日、安保法制を憲法違反とする訴訟について、札幌地方裁判所民事第5部(岡山忠広裁判長)は主張立証が全く尽くされていないにもかかわらず、唐突かつ強引に審理を打ち切ったうえ差止請求を却下、国家賠償請求を全部棄却するという判決を言い渡した。

その内容は「防衛出動命令等の差止請求は不適法」「平和的生存権は法律上保護された具体的権利ではない」「自らの信条や信念と反する立法等によって精神的苦痛を受けたとしても受忍されなければならない」「安保法の違憲性を判断するまでもない」など空疎極まりないもので、「武力」という最も危険な国家権力の発動を禁止し、国を訴える権利を含む国民の基本的人権を定めた憲法を土足で踏みにじった。そもそも原告の権利や利益の有無について原告本人尋問すら行わず、真摯にその訴えを聞くこともなく判断したことは「事実を認定し、その事実を前提として法律を適用する」という司法の基本的役割を放棄している。

このような判決に関与した裁判官(岡山忠広、根本宜之、牧野一成)は、「司法」の名を借りて、権利の主体であり主権者である国民を愚弄し、民主主義に基づく不可欠な国民的基盤たる三権分立の原理を支えるところの自らの使命を放擲し、内閣及び国会において多数を占める政権与党に積極的に迎合してそれに屈したものと受け止めざるを得ない。このような裁判官によって構成される合議体は、およそ司法という名に値するものではない。

個人の人権が侵害されたとの訴えがなされた場合、これを憲法によって救済するため、その侵害の有無に誠実かつ謙虚に向き合うのが本来あるべき司法の姿である。ところが札幌地裁の裁判官らは、一見してきわめて明白な憲法違反が問われている重大事件に対して、証人尋問はもとより原告の本人尋問すら拒否し、原告・弁護団の訴えを一方的な予断をもって一刀両断に切り捨てた。これは司法にあるまじき行為であり、司法権力の濫用であり傲りである。

2、札幌地裁における原告・弁護団には、集団的自衛権行使の最前線に立たされる自衛官とその家族を、隣人・生徒・学生・クライアントとするものがいる。また、自衛隊基地と生活を共存させてきた人たちも多数いる。北海道は、沖縄や本土とともに、アジア太平洋戦争の犠牲になった。敗戦時のソ連軍侵攻とともに人々が負った傷は甚しく深く、北方領土問題、自衛隊基地問題など政治的・経済的には勿論のこと、北海道は歴史的・文化的・学術的にも、常に「軍事」と「平和」に向き合ってきた。長沼ナイキ基地訴訟や恵庭訴訟はこの札幌の地で争われ、その中で自らの人生を選択してきた戦後生まれの人も少なくない。そして人々の生活はもちろん、教育や福祉も、こうして選び取られた「平和」とともにあった。このように、アジア太平洋戦争を生き抜いた人も、戦後生まれの人も、それぞれの経験から、日常の平和を大事にし、暴力や差別に抗いながら日本国憲法をよりどころにして人生を切り拓いてきた。深瀬忠一北海道大学名誉教授が多大な理論的貢献をされた「平和的生存権」は、長沼訴訟に大きな影響を与えた。さらに2008年の名古屋高裁判決が示すように、「平和的生存権」は具体的権利性を有し裁判上救済されるべき権利として理論的発展を遂げている。「平和的生存権」についての憲法学説は、次の世代に承継されて発展し、今日国際社会で提唱されている「平和への権利」の基礎理論を構築したものとして世界に誇れるものとなっている。

3、こうした憲法の核心ともいうべき戦争放棄を定めた9条が、これまでの政府解釈を全く無視して集団的自衛権行使を容認するものと解釈されたうえ、「戦争法」の異名をもって世間に通用するような本件安保法制によって、自らが、隣人が、教え子が戦争に直面させられることを誰が黙って見過ごすことができるのだろうか。しかも、この北海道、札幌の地においてである。

政府が2018年12月に策定した新防衛計画の大綱と中期防衛力整備計 画は、イージスアショアの配備、いずも型護衛艦の空母化、短距離離陸垂直着陸が可能な F35B の大量購入や長距離巡航ミサイルの導入など、敵基地攻撃可能な兵器の配備により戦争への道をさらに大きく進めた。札幌地裁がこの時期に、迫り来る戦争の危機に一切目を背けて憲法判断を避けたことは、司法の戦争加担に他ならない。私たちは、戦前、司法が治安維持法や軍機保護法など様々な悪法のもとで無辜の人々を弾圧し戦争を推し進めた、あの悪夢の時代を想起して戦慄せざるを得ない。

4、この訴訟の原告らは、その経験と良心に基づいて、主権者としてこの憲法に定められた権利を行使し、国の責任を問い、集団的自衛権を差し止める訴訟と国賠訴訟を提起した。こうした原告・弁護団への応答としてなされた今回の判決は、憲法の理念を根底から否定し、戦争へ舵を切るという憲法の破壊・蹂躙に司法が手を貸すものである。各国が戦争を放棄して国際社会に平和をもたらすためには、各国の憲法に戦争放棄を書き込まなければならない。日本国憲法は、その理想を世界に先駆けて実行し、私たちを国際社会において名誉ある地位に押し上げてきた。十分な審理をしないで平和憲法の破壊に手を貸した札幌地裁裁判官らは、そうした流れに逆行し、日本を戦争へと導く重大な過ちを犯したものとしてその責任を厳しく問われるべきである。ワイマール共和国の崩壊とヒトラー独裁政権の出現の要因として、後世、権力に迎合した裁判官の存在が鋭く批判の対象とされてきたが、本日の判決を下した3人の裁判官も安倍政権による平和憲法の破壊に加担した裁判官として歴史的責任を追及され続けることになるであろう。

この闘いは、これからも控訴審、上告審へと続く。私たちはこの理不尽極まる判決に決してひるむことなく闘い続ける。

5、私たちは、このような札幌地裁判決とこれを言い渡した裁判官に対し心からの強い怒りを表明するとともにこのような司法と裁判官の責任を糾弾し、徹底的に追及していく。

全国で提起されている25の安保法制違憲訴訟では、原告側が申請した宮﨑礼壹元内閣法制局長官ら証人全員を採用した前橋地裁の決定など、今後様々な推移を辿ることになる。

私たちはこれからも平和憲法を死守するために国民市民と固く連帯しながら創意工夫して総力あげて闘い抜くことを決意している。この闘いの目的は、堕落した政治と司法を変え、憲法を国民市民の手に取り戻すことにある。このことこそが世界に誇る憲法9条を持つ国の主権者である私たちの使命であり責任であると確信するからである。

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