【声明】安保法制違憲訴訟岡山地裁判決に対する声明

2022.3.23

安保法制違憲訴訟岡山地裁判決に対する声明

岡山安保法制違憲訴訟弁護団及び判決報告集会参加者一同

1  本日,岡山地裁(裁判長田中俊行)は,岡山安保法制違憲訴訟について,原告ら560名による切実な訴えを不当にも棄却した。

2 判決理由は,⑴ 憲法上,平和的生存権が具体的な権利利益として賦与され保障されているとはいえない。⑵ 新安保法制法によって,直ちに我が国が戦争に巻き込まれ,他国から攻撃を受けたり,テロリズムの対象となったりする現実的具体的危険が生じるともいえず,そのような事態が生じる具体的な危険が切迫し現実的なものとなっているともいえない。⑶ 原告らが恐怖や不安を抱いていること自体は理解できるが,抽象的な危惧感や不安感の域を出ない。⑷ 新安保法制法は法律の改正または制定に過ぎず,憲法の効力が影響を受けるものでないから,実質的な憲法改正ということはできない。また,憲法上,個々の国民に対し憲法改正についての権利利益を具体的に賦与し保障したものとはいえない。

したがって,新安保法制法に係る閣議決定,法案の国会提出,法案の可決をした行為によって,原告らの主張する平和的生存権,人格権,憲法改正決定権が侵害されたとは認められない。なお,本件において憲法判断をなすべき必要性も相当性もない。

というのである。

3 しかしながら,平和的生存権については,憲法前文,9条,13条によって,憲法の理念の中核をなすものとして,当然に憲法上認められるべきものであることは,原告らにおいて詳細に根拠づけて主張してきたとおりであり,これを否定することは,憲法感覚の欠如を示すものというほかない。また,新安保法制法の施行によって,我が国が戦争に巻き込まれ,他国から攻撃を受けたり,テロリズムの対象となったりする現実的具体的危険が生じることについても,審理の過程で詳細に主張し,専門家証言によって具体的に立証してきたところであるにもかかわらず,裁判所がこれらを吟味した形跡は全く窺われない。

ウクライナへのロシアの侵攻がなされ,台湾有事が叫ばれている状況に対する肌感覚が全く欠如した無責任な判断としかいいようがない。

憲法の解釈改憲についての実質的な検討は何もなされないままに,憲法制定権力者である国民の権利についての認識も欠如した判断は空疎というほかない。

本判決書は,始めに結論ありきで,これまでの棄却判決の理由をコピーアンドペーストしただけの空疎な書面であり,司法が権力に忖度した残念な判決というほかない。

4  集団的自衛権行使を容認し,後方支援活動をし,米軍等の武器等防護をすることなどを認める新安保法制法が,元最高裁長官を含む元最高裁判事や,元内閣法制局長官等からも憲法違反であると指摘され,心ある国民の多くが反対したにもかかわらず,なりふり構わず強引に制定され,施行された。これにより,我が国,我が国民の頭上に,きな臭い暗雲が立ちこめることとなった。

一見明白に憲法違反である新安保法制法によって,私達が戦争やテロに巻き込まれる危険に曝され,平和的生存権や人間の尊厳に由来する様々な人格権の侵害を受けることを肌で感じた多数の国民は,司法に付与された違憲立法審査権の発動による救済を求めて全国各地で訴訟を提起した。

平成28年6月,この岡山においても,私達は本件訴訟を提起した。

訴えの提起から早や,5年以上が経過したが,新安保法制法のもとで,自衛隊は,情報や装備,戦闘支援活動態様において,米軍と「切れ目なく」一体化し,独自の判断・行動をすることすら期待できないまでになりつつあり,我が国は,「存立危機状態」の判断をするまでもなく,米軍の戦闘に巻き込まれるのみならず,離脱することも困難な状態となっている。

さらには,米中対立が深まっており,遅くとも6年内には,台湾を巡って,米中が衝突する危険性が迫っていると言われている。

中国とアメリカが台湾を巡って,戦争に突入した場合に,我が国と密接な関係にあるアメリカに対する武力攻撃が発生したとされ,アメリカ軍と一体化した自衛隊は,集団的自衛権に基づき,「我が国を防衛するため」として,武力行使をすることになり,戦争当事国として我が国は攻撃の対象にされることになる。我が国民が,否応なしに,殺し,殺される最悪の悲劇の中に巻き込まれることが,新安保法制法の適用下では想定内にある。

戦争は起こってしまってからでは遅く,「戦争の危険が切迫し,現実のものになって」からでは,既に手遅れである。戦争体験者である原告らはその体験を通じ,あるいは,原告らの歴史認識を通じて,新安保法制法が我が国を戦争に巻き込む現実的な危険性を有することを肌で感じて,矢も楯もたまらず,新安保法制法によって,様々な態様で権利の侵害・抑圧を受けていることを訴えているのである。

5 我々は,司法の役割を放棄し,憲法判断を回避した不当判決に対して断固抗議するとともに,司法が本来の使命を全うする日まで,そして,憲法違反の安保法制法を廃棄して,私達のみならず未来を生きる人々の平和的生存権を揺るぎのないものにする日まで,全力で戦い続けることをここに宣言する。

以上

Share Button