安保法制違憲・東京地裁判決(差止訴訟・国賠訴訟)に対する声明

2020年3月13日

東京安保法制違憲訴訟弁護団

安保法制違憲訴訟全国ネットワーク

代表  寺  井  一  弘

 
本日、安保法制を憲法違反とする訴訟について、東京地方裁判所民事第2部(森英明裁判長裁判官、三貫納有子裁判官、鈴鹿祥吾裁判官)は、極めて不十分な理由付けにより、差止請求を却下し、国家賠償請求を全部棄却するという判決を言い渡した。

その内容は「防衛出動命令等の差止請求は処分性や原告適格を欠くため不適法」「平和的生存権は法律上保護された具体的権利ではない」、「自らの信条や信念と反する立法等によって精神的苦痛を受けたとしても社会通念上受忍されるべきもの」「平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権の侵害はいずれも認められない」など、原告らの真摯な訴えや緊迫した中東情勢その他の軍事的状況を考慮しない不当な内容であり、特に安保法の違憲性等の憲法問題につき、「その余の点について判断するまでもなく」と述べるだけで何ら触れておらず、憲法判断をしない具体的な理由も示さないという点は、本件判決に先立つ昨年(2019年) 11月7日の東京地裁民事第1部判決と同様に憲法判断を不当に回避するものであり、人権保障の最後の砦とされる司法権の役割を果たそうとしなかったものというほかない。

本件訴訟で原告らは、昨年11月7日の民事第1部判決とは異なり、国家賠償請求だけではなく、行政事件訴訟法上の差止めの訴え(差止訴訟)も提起した。しかし、本件判決は、差止めの訴えに関し、その訴訟要件である処分性や原告適格が認められない旨判断することで、憲法違反の主張を含む行政処分の違憲・違法についての実体判断を全くしなかったのである。しかし、本件訴訟の請求の趣旨に対応する内閣総理大臣又は防衛大臣による存立危機事態における防衛出動等の各行為は、原告らに対する行政処分ないし公権力の行使であって、本来、処分性や原告適格を満たすものであるというべきである。

原告らは、本件において、主位的主張として集団的自衛権の行使等の事実行為を行政処分と捉え、予備的主張として集団的自衛権による自衛官に対する防衛出動命令等を行政処分と捉えて主張した。

ところが、本件判決は、本件主位的主張との関係でいえば、存立危機事態における自衛隊の防衛出動(集団的自衛権の行使)、後方支援活動又は協力支援活動としての物品・役務の提供、駆け付け警護等の国際平和協力業務の実施及び武器等防護のための警護の実施という各事実行為は、自衛隊が武力を行使し又は武力の行使に至る危険を生じさせるものとして、原告らの平和的生存権、人格権及び憲法改正・決定権を侵害し、その侵害状態の受忍を強いるという意味で直接的な公権力の行使といえるのである。また、予備的主張との関係では、請求の趣旨に対応する内閣総理大臣ないし防衛大臣の自衛隊又はその部隊等に対する行政機関における命令が自衛官に対する命令に至るものであることから(ただし、合衆国軍隊等の部隊の武器等の警護については直接自衛官に対する命令である。)、自衛官に対する上記各命令が本件差止の訴えの対象となる行政処分であり、また、原告らには当該処分に関し処分の名宛人以外の者としての法律上保護されるべき利益(原告適格)が認められるべきであるが、本件判決は、処分性につき法的効果がない旨述べ、また原告適格につき「自己の具体的な権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」ではない旨述べるだけで十分な理由を示すことなく否定し、本案審理における憲法判断等を不当に避けている。このような判断は、憲法の趣旨のみならず、実効的な権利救済を図るという行政事件訴訟法の趣旨にも反している。このように処分性や原告適格の意味を不当に狭く解釈することで実体判断・憲法判断を避けようとする本件判決の態度は、処分性や原告適格を拡大し、積極的に実体判断をしようとする今日の最高裁判決の傾向にすら反するものである。

審理の仕方についてみても、原告本人尋問は行ったものの証人尋問は行わず、また、昨年末以降の自衛隊の中東海域への派遣や米・イラン間の武力攻撃の応酬・連鎖等による状況の変化から原告らが行った口頭弁論再開の申立てを事実上考慮せず、弁論を再開することなく漫然と判決をしており、裁判所の職務を十分に果たしていない。

本件判決のような司法の消極的態度は、原告らが懸命に訴えてきた人権侵害の状況や武力衝突が繰り返されている世界の現状を軽視するものであり、政府が私たちの平和憲法を破壊することに手を貸す結果を生じさせている。内閣及び国会において多数を占める政権与党や首相官邸による立憲主義・法の支配の破壊行為を止められる機関は、憲法上司法権の独立が保障された裁判所なのである。本件が一見して極めて明白な憲法違反が問われている重大事件であるにもかかわらず、裁判所が憲法問題について正面から回答せず、基本的人権や平和主義を中核に据える日本国憲法の理念を無視した形式的判断をしたことに、私たち市民は、「希望」を見出すことができるのだろうか。

政府による平和憲法の破壊を止めるべく、控訴審も力を合わせ、私たち市民の人権と平和憲法を守る最後の砦となるはずの「希望の裁判所」による正しい判断を求めて闘い抜くことをあらためて決意する次第である。

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