私たちが安保法制の違憲訴訟を提起する意義について(3)

(2)から続く

三 法律家としての弁護士の職責

次に私たちは、訴訟提起をせずに現状を座視することは、法律家としての弁護士の職責を全うすることにならず、むしろ安保法制の現状追認と評価されてしまうことを強く危惧しました。弁護士の使命は、弁護士法一条一項が示すように、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することにあります。

私たちは法律家にとっての人権擁護と社会正義の実現は「憲法価値の実現」であると考えています。これが法律家の最大の使命というのが私たちの信念です。無謀極まる安保法制の閣議決定や安保法制の国会成立によってすでに平和的生存権などの基本的人権を侵害されて現実に苦しんでいる方が多数おられます。さらに、この安保法制のもとでの南スーダンへのPKO派遣、中東への自衛隊派遣、集団的自衛権行使などの政府の行為によって、より一層の被害が拡大しようとしています。それにもかかわらず、難しい課題であることを理由に法律家として行動しないのでは、その社会的使命を果たしているとは言い難いのではないでしょうか。

市民とともに声を上げ選挙など政治過程を通じて安保法制を廃止に追い込むことはぜひとも追求していかねばなりません。しかし、法律家にしかできないこともあるはずです。司法のルートからこの違憲立法を廃止する訴訟を推し進めることは、まさに法律家にしかできないことであり、法律家として行動しなければならないことと考えています。

そして同じ法律家であっても、市民とともに訴訟を提起できるのは弁護士だけであることも忘れてはなりません。裁判官も検察官も憲法を学び、かつ、憲法尊重擁護義務を負う法律家としてこのような違憲の安保法制が放置される事態については、立憲主義、法の支配の観点から看過できないとの強い思いを持っているに違いありません。法曹三者はそれぞれの立場で協力して、この違憲立法を廃止させなければならない大きな責務があります。いまこそ社会正義の実現に向けて弁護士にしかできない何らかのアクションを起こすことが法律家としての弁護士に求められていると考えました。

四 司法の役割を問うこと

また、私たちは司法の役割に照らしても、この裁判を起こすことは理にかなっていると考えました。立憲民主主義の下で裁判所に期待されている第一の役割は、現実に被害を被っている個人の救済にあります。これは憲法訴訟では「私権保障機能」と呼ばれますが、安保法制が廃止されるまで、多くの人々が平和的生存権を始めとした様々な人権を具体的に侵害されることになります。特に戦争に関わる事柄は個人の生存そのものに影響するのですから、他の人権に比して一層尊重されなければならないものです。このような場面こそ裁判所がその救済に乗り出し、憲法の規範力を発揮すべき場面です。

さらに裁判所の違憲立法審査権の持つもう一つの重要な意義である憲法保障機能を発揮するべき場面と考えます。裁判所には違憲立法審査権の行使を通じて、政治部門によって壊された憲法秩序を回復し、立憲主義を取り戻す使命があるのです。これを「憲法保障機能」と呼びますが、この違憲審査権の持つ憲法保障機能を今ほど重視するべき時はないように思われます。

これまでも合憲性統制機関として最高裁は、違憲の主張適格の拡大や住民訴訟・選挙訴訟などの客観訴訟における違憲判断を通じてこの憲法保障機能を発揮してきました。

日本国憲法は、人権を保障し(97条)、最高法規性を明記し(98条1項)、裁判所に違憲審査権を与えている(81条)点で、法の支配を徹底した立憲主義を採用しています。

ところが、安保法制は、憲法よりも安全保障政策を優先させ、本来必要な憲法改正手続きも経ずに、都合よく憲法規範を大きく歪めながら成立させたものです。誰が考えても容易に理解できる安倍政権の「砂川事件最高裁判決を恣意的に曲解する理不尽な手法」を断じて許してはなりません。

このような非立憲政治に歯止めをかけ、憲法秩序を回復する役割を担うことができる国家機関は、裁判所しかありません。裁判所には憲法秩序の維持という任務から、憲法判断を示さなければならない場合があるはずです。私たちは今回がまさにその場合にあたると考えています。

(4)へ続く

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