私たちが安保法制の違憲訴訟を提起する意義について(4)

(3)から続く

五 国民運動の一環であること

さらに私たちは、この裁判の目的が、単に違憲判決を得ることに尽きるものではないことも明確にしておきたいと思います。すなわち、裁判を通じて社会にインパクトを与えながら世論を形成し、政治過程を通じて違憲状態を矯正することにも重きを置きたいと考えています。

このような裁判の政策形成機能は、具体的には嫌煙権訴訟(東京地裁昭和62年3月27日)が、原告敗訴にもかかわらず禁煙車両の増設をもたらした例、砂川裁判闘争において、一審の伊達判決が日米政府を動揺させ、ひいては、67年の美濃部都政誕生を潮目に、69年、米軍の拡張計画断念に至った例など、枚挙に暇まがありません。「裁判で勝つ」ことのみならず、「裁判を通じて勝つ」ことも車の両輪として重視しています。

たとえ裁判所が違憲判断をしたとしても、違憲判決を国会が無視して放置すれば、もはや法律家はどうすることもできません。尊属殺違憲条項ですら法改正まで22年間も放置されました。この安保法制も最終的には国会で廃止するしかありません。もともと裁判所の違憲判断はそのための一手段にすぎないのです。ですから今回の違憲訴訟も国会での廃止に向けた運動の一環であることは明らかであると考えています。

2000万人署名運動を実現すること、国会前をはじめ全国各地でデモや集会を行ったりチラシを作り配布したりすることなどさまざまな廃止に向けての国民運動の一環として、多くの国民とともに司法を通じて声を上げ、立憲主義を無視する暴挙は決して許さないという市民の意思を強く示すことが必要なのです。国民の皆様の圧倒的多くは裁判所が「憲法の番人」であることを強く求めていることを忘れてはなりません。

六 未来に向けた諦めない戦い

訴訟提起後も事態の推移に合わせて、全国各地での訴訟のあり方、闘い方も随時変化していくことになると思います。柔軟に対応していかなければなりません。しかし、まず誰かが最初の一歩を踏み出すことが必要なのです。

この安保法制違憲訴訟はこれまでに前例のない訴訟であることは確かです。何しろ今回のような立憲主義を無視した安倍政権による傍若無人の振る舞いはこれまでの日本になかったことなのですから当然であります。ここで前例のない案件だからといって、弁護士が何もしないままこの異常な事態を放置すれば、ますます憲法と法を無視した政治がまかり通ることになってしまうでしょう。

私たちは、安保法制が違憲であり、違憲の法律の存在を認めることなどできないという怒りとともに、憲法を無視する態度、数の横暴で国会を運営する態度を許すことができません。この国は法の支配の国であり、立憲民主主義国家であったはずです。単なる数の力で何でも自分の思うとおりに押し通そうとする政治が何の歯止めもなくこのまま放置されることは、企業も社会も家庭もあらゆる場面で法を無視することがまかり通ることにつながります。これは断じてあってはならないことです。

法律家は力ではなく、理性と知性を体現する法によって個人の尊厳を守り、社会秩序を維持することをその使命としているはずです。自らが違憲と判断する安保法制をそのまま放置することは、自らの職業の基盤、そして自分がこれまで歩んできた法律家としての人生をも揺るがすことにつながります。

今、一番あってはならないことは、やっても無駄だという無力感から行動しなくなること、物を言わなくなることです。これまで多くの市民が物を言っても無駄だと沈黙を決め込んでいました。投票に行く人が少ないのもその表れでしょう。しかし今、状況は変わってきています。

若者を含めて、多くの市民がデモという形で街に出て物を言い始めました。今や、政権はそれを単純に無視することができなくなってきています。司法でも物を言うことの価値を再確認することが大切であると考えています。これまでのすべての憲法訴訟も初めはみな前例のない無謀な闘いとみられました。私たちが判例集で見る憲法判例は勇気を持って立ち上がった先輩法律家の汗と努力の結晶なのです。

安保法制はまさに、日本を戦争する国に変えるものです。そのように国柄を変えること自体は本来、それによって加害者にも被害者にもなる主権者国民の意思でなければできないことのはずです。最高裁が「違憲状態」と断じた正当性のない選挙で過半数の議席を得ただけの政権(しかも先の衆議院選挙で与党である自民党・公明党が得た支持率は有権者のわずか24%に過ぎません)が、憲法を無視して日本の国柄を変えるような権力行使をすることは、まさに国民の憲法制定権の侵害に他なりません。

憲法が蹂躙されるこうした事態を座視すれば、必ずや市民の生命、自由、財産の蹂躙を招くに違いありません。立憲主義と民主主義の回復のため、今こそ私たちは法律家として、弁護士として、その職責を果たす時だと考えます。

私たちは自分が信じる悔いのない行動をとっていきたいと思います。私たちは人類史上誇るべきわが国の平和憲法を活かすことを使命とし、立憲主義と民主主義を取り戻す闘いに皆様とともに挑戦し続けていく決意を固めております。

最後になりますが、病と戦っておられる、なかにし礼さん作詞でソプラノ歌手の佐藤しのぶさんが歌っておられる「リメンバー」をお送りします。

なかにし礼オフィシャルサイト

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