判決を受けて
2022年3月17日
安保法制違憲かながわ訴訟弁護団
本日、横浜地方裁判所第4民事部(関口剛弘裁判長)は、安保法制違憲かながわ訴訟において、原告らの国家賠償請求及び自衛隊の防衛出動等の差止請求を棄却する判決を言い渡しました。
判決は、新安保法制法の憲法適合性に対する判断を回避し、安保法制制定による原告らの平和的生存権、人格権及び憲法改正・決定権の侵害を否定しました。
かながわ訴訟には、横浜大空襲に罹災した原告がいます。眼前で多くの命が失われる筆舌に尽くしがたい経験を乗り越えて生きてきましたが、安保法制制定によって日本が再び戦争をすることができる国へと変貌したことにより、戦争の記憶が再燃し、なまなましい恐怖が呼び起こされ、再び同じ目に遭わされることへの強い恐怖を覚えています。
横須賀基地、厚木基地等在日米軍基地の周辺に居住する原告も多くいます。在日米軍基地がテロや米国の紛争の相手国・組織からの攻撃の対象とされることに強い恐怖を感じながらの生活を余儀なくされています。安保法制制定後は、日米の軍事的一体化のみならず、インド洋や南シナ海での米軍や他国軍との演習の実施等により、偶発的な衝突が生ずれば、在日米軍基地が攻撃され、平穏な生活を失うことになるという現実的な危険性に怯えさせられています。
判決は、「戦争やテロ行為等により生命・身体が侵害される危険にさらされず、恐怖と欠乏から免れて日常生活を送る自由」が憲法13条により保障されていることを認め、原告らが、日本が武力衝突に巻き込まれ、生命・身体を侵害されるのではないかとの恐怖・不安を抱いていることを認め、原告らが、個人の経験や状況等に応じた精神的苦痛、個人の尊厳が否定されたと感じたことによる精神的苦痛を感じていることは認めるものの、現時点で、生命身体侵害の具体的危険が生じているとはいえないことから、新安保法制法の立法行為によって権利が侵害されたとはいえない、として、権利侵害を否定しました。
平和的生存権、憲法・改正決定権については、原告らの主張にそった検討をしたものの、結論としては権利性を否定しました。
差止請求について、全国に展開している安保違憲訴訟の判決のなかで初めて民事請求の適法性を認めたことは評価できます。しかし、平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権は侵害されたら事後的に回復を図ることが困難であることや近年日本の安全保障環境が変化していることを認めながらも、権利・利益侵害の蓋然性を否定し、請求を棄却しました。
判決は、権利侵害を否定し、憲法判断を回避しました。かかる判断に従うならば、戦争が始まり、生命・身体という一度侵害されたら回復が不可能な権利侵害が生じてからでなければ裁判所に訴えることも、法の違憲性を問うこともできないことになります。このような判断を到底受け入れることはできません。
もっとも判決は、「関連2法については、『存立危機自体』として想定される事態の範囲など、既定の文言のみから直ちに明らかとは言えない部分もあり、今後、既定の想定する事態等について相当数の国民の理解ないし共通認識が不十分なまま、本件各差止請求にかかる命令及び事実行為が行われ、あるいは、行われる蓋然性が生じることになるとすれば、決して望ましいこととはいえない。上記蓋然性が未だ認められるに至っていない現段階のうちに、改めて、関連2法の内容について、行政府による説明や立法府による議論が尽くされ、憲法が採用する立憲民主主義と平和主義の下、広く国民の理解を得て、国の安全保障に関連する諸制度が、国の平和と国民の安全を守るために適切に機能する制度として整備されることが望まれる。」と判示しています。新安保法制法の内容についての不明確性を指摘し、そのままの適用について、危惧を表明して、立憲民主主義と平和主義の下での再検討を求めています。
本判決は、これまで言い渡された他地裁の判決の言い回しをそのままいうことはなく、原告らの訴えに耳を傾けたこと、行政府と立法府に対し、裁判所として一定の要望を述べたことについては、評価できるものの、裁判所の本来行使すべき違憲審査権を行使しなかったことについては、承服できません。私たちは控訴して、立憲民主主義と平和憲法を取り戻すために、司法が人権擁護の最後の砦としての機能を果たし、裁判所が安保法制は憲法違反であるとの理にかなった判決を示すまで、闘い続けることを表明します。